Backlog World 2019レポート:「田舎の木材工場で起きた奇跡」と、その後。

今日は「プロジェクト管理に関わる全ての方のための祭典」Backlog World 2019にブロンズスポンサーとして参加させて頂きました。いくつかセッションも聞かせて頂きましたが、とても楽しく、学びのある内容でしたので、レポートという形で一部を共有させて頂きます。

まずは昨年のBacklog World 2018でGood Project Awardを受賞した株式会社DIFFEASYの西さんによる講演のレポートです。『「田舎の木材工場で起きた奇跡」と、その後。』について、詳しく語って頂きました。

クライアントの株式会社ビッグハウスは、宮崎県にある木材工場です。社長はこれからはITの時代になると確信して、工場のIT化やタブレット導入を進めようとしていました。しかし、職人気質のメンバーは比較的中高年が多く、そもそもスマホが使えない人も多いので、なかなか進展しませんでした。そこで、DIFFEASYに相談したというわけです。そしてDIFFEASYが開発したiPadアプリによって、設計図をiPadで共有することが可能になり、工場のペーパーレス化を実現することができました。ところが、このお話は単なるタブレット導入に留まらず、大きな変化を組織とメンバーにもたらしました。

ある日、DIFFEASYのメンバーが工場を訪問すると、大きなディスプレイが設置され、設計図が共有されていました。聞くと、自分たちで調べて、AppleTVを使うと画面共有できることを知って導入したそうです。数ヶ月前には、ガラケーをメインに使っていたメンバーが、自らITの可能性を模索し、積極的に学んで取り入れるようになったのです。それだけでなく、ベテランとITに強い若手の交流も盛んになり、それまで受け身だったメンバーも含め、提案や意見交換が活発になり、組織が活性化したそうです。

具体的な変化としては、IT化によって業務が大幅に効率化し、残業が減って、ナレッジの継承がスムーズになった事が挙げられます。それまではお互いのタスクの内容がわからず、手が空いている人が何となく仕事を振られるという方法だったため、人によって待ち時間が生まれたり、結果的に残業が増えてしまうという問題がありました。ですが、IT化により誰がどんなタスクを担当するのかを事前に計画し、現在着手しているタスクや空き状況が見える化されたため、効率的に仕事を割り振ることが可能になりました。また、個人の作業の得意不得意も可視化され、得意な作業を割り当てることで、作業効率自体も改善しました。そして個人に属するナレッジもITによって形式知化されました。みんなで作った用語集やデジタル化された設計図で、誰もが分からないことを自分で調べて、ノウハウがスムーズに共有され、作業が人に依存しなくなりました。

一つのシステムがきっかけで、会社の文化が良くなり、変化に対応できる組織に変化したこと、それが田舎の木材工場で起きた奇跡でした。しかし、この奇跡には、さらなる大きな変化を伴う続きがありました。

その後、ビッグハウスは、日本最大規模の2×4木材工場となる、新工場をオープンしたそうです。広さはなんとそれまでの5倍。会話をするために工場を行き来するのも大変です。そこで、離れた場所にいるメンバーとのやり取りにFacetimeを活用し、敷地が広くなっても効率的にコミュニケーションできるようになりました。そして作業の属人性を解消したため、従業員を倍増しても業務がスムーズに進み、さらなる生産増に対応できるようになりました。現在株式会社ビッグハウスは、世界に誇る木材工場を目指して、サイトのモダン化やシステムエンジニアの採用などさらなるチャレンジに邁進しています。

なぜDIFFEASYは、当初の困難な条件にも関わらず、このプロジェクトを成功させることができたのでしょうか。西さんは、以下の4つを成功要因として挙げました。

・小さな成功の積み重ね
・真の課題にアプローチ
・ストーリーの共有
・社長のリーダーシップ

 実際のところ、ビッグハウスのIT化の構想は、生産管理なども含む壮大なものでした。しかし現実はITリテラシーが高くないメンバーが多いため、まずはスマホに慣れたり、ルール作りなどシステムを使わない業務改革に取り組むことから始めました。メンバーに成功体験を積んでもらいながら、本当に開発が必要な領域を見極めました。社長の強い思いと、それぞれのメンバーが自分ごととしてプロジェクトを感じてもらいながら進めたことが、成功に繋がったのです。

プロジェクトは、プロジェクトマネージャー一人で進めるものではなく、関係者全員でプロジェクトを成功に導くもの、そしてPMはそのための場を整えるファシリテーターとなるべきではないかという提言で、セッションは終わりました。

以下個人的な感想ですが、ITプロジェクトが、単に業務の効率化を実現するだけでなく、組織自体のスケールや個々のメンバーの活気を大いに引き出す可能性があることに大いに感動しました。そしてもう一つの学びは、デジタル化を成功させるためには、システムの導入だけでなく、働く人個人の思いや、チームの仕組みが重要だとも感じました。特に、ITと仕組みを組み合わせることで、「誰が」「何を」「いつまでに」行うのかがクリアになることが、業務の効率化や、働く人が幸福な人生を謳歌するためにも、とても重要なのではないかと思いました。

Backlogは使いやすいとはいえ、ツールに過ぎません。しかし、これらの変化をもたらすきっかけとしてとても重要なのではないか、そんなことを思いました。